回復期リハビリテーション病棟とは
リハビリテーション専門の病棟として多くの専門職が関わった回復期リハビリテーション病棟の制度が平成12年4月から発足しました。
入院できる対象疾患が決まっており、発症あるいは術後から2ヶ月以内(疾患によっては1ヶ月)の方を対象としています。
入院期間も疾患別に60~180日と決まっており、その期間に集中してリハビリを行うことで最大限の回復が期待できると考えられています。
偽のリハビリテーションと真の(本当の)リハビリテーション
従来のリハビリテーション(以後リハビリ)は、短期間で、高いADL自立度を獲得することを目標として取り組んできたことは周知の事実です。そのため、利き手の麻痺の人は利き手交換をし、歩行が難しそうな人は車椅子自立をすることが最も良いリハビリであり患者満足度も高いと考えられてきました。そして現在においてもその目標に従ってリハビリしている施設が大部分です。その前提は、脳脊髄損傷は 急性期の損傷の程度で機能予後が決まり 例外的な症例を除いて約6カ月を過ぎると改善することはほとんどないということで、その前提に基づいて 残った機能をどれだけ自立に利用できるかを考えることでした。それが患者さんの希望でもあり、患者さんに対する最善のリハビリの在り方と思われてきました。従って、利き手交換し、車椅子自立の患者さんはそれで満足しているはずでしたが、35年以上 脳脊髄疾患の患者さんを診ていると、患者さんの本当の気持ちがADLの自立だけではないことはよくわかってきました。診察の時に「この手が動いたら」「この足で歩けたら」という言葉を何度聞いたことか、数えきれません。つまり、ADLの自立は患者さんの希望の一部ではあっても本当の満足するというレベルではなく、社会的要請により患者さんに強制していたことだということが、本当のところだと考えています。患者さんも損傷された脳脊髄障害が治ることはないと考えて 自分の本来の希望とは異なっていても、従来のリハビリを受け入れてきたのです。
しかしながら、1990年代以降にfMRIなどで脳機能が直接に画像化できるようになって、以前考えられていたよりも脳は柔軟性があり、特に損傷を受けた急性期にはダイナミックな機能的な再構築が起こりうることが分かってきました。そうすると、今まで考えられ実行してきたリハビリが本当に患者さんの希望とし必要としているリハビリかどうかを考え直さなければなりません。患者さんのリハビリに対する本当の希望は 動かない手が以前と同じように動き、動かない足が以前と同じように動いて自分の足で歩くことができるようになることであり、利き手交換したり、車椅子で動き回ることではないはずです。患者さんの心の声を聞いて実践することが、「本当の」リハビリと考えています。ただ理論が分かってもそれを実行する手段がなければ、絵にかいた餅になってしまいます。幸いにも、最近のロボット工学の進歩は目覚ましく、リハビリに利用できる機器がたくさん出現し、また、東洋医学(漢方薬や鍼灸治療)などを併用する統合医療を駆使することで、従来では不可能と考えられていた改善も可能となってきました。見方を変えれば、いままでは「本当の」リハビリをすれば歩けるはずの人が、「偽の」リハビリをすることで、利き手交換や車椅子生活を強いられてきたのではないかと思っています。また現時点では不可能ですが 将来的には脊髄の完全断裂などの病態でも細胞移植などの新しい医療技術を使用すれば、失われた機能を完全に回復することも可能となって来るかもしれません。
10年にわたり「本当の」リハビリを実践してきたつもりの私の経験から、現時点での当院の回復期リハビリ病棟では、私の考えを理解してくれる看護師やセラピストの協力の基に 以下の条件を満たせば 重度の不全麻痺の患者さんでも必ず歩行可能となるものと確信できるようになってきました。
1.認知症がなく、医療スタッフの指示を理解し実行できる。
2.リハビリ意欲が継続できる(リハビリの拒否がない)。
3.リハビリするだけの体力があり、全身状態がリハビリするのに大きな問題がない。
4.心臓のペースメーカーなどの機器類やロボット装着部分に金属などが入っていない。
5.ロボットリハビリ(上肢には、IVES,Mulo solution,下肢にはHAL,Walk aide)や東洋医学的治療(漢方薬や鍼灸治療)やリハビリに必要な健康食品等を拒否しない。
6.原疾患の治療が完了している(たとえば、脊髄損傷であれば、圧迫が解除されている、脳腫瘍であれば、摘出されているなど)
以上の条件でリハビリして歩行可能となった症例を動画で医療関係者に診てもらうと、必ず「まれには このような症例もありますよ」とか「たまには これぐらい回復する人もいますよ」という返事が返ってきます。従来のリハビリでは確かに「まれ」であり「たま」にしか起こらないことが、当院回復期リハビリでは普通に起こりうるという事実が、統合医療に基づいたリハビリが「本当の」リハビリであるということを示していると考えています。逆にいえば、従来のリハビリが、本来「本当の」リハビリすることによって回復するであろう能力を考慮に入れず、ADL自立という呪縛により、いかに患者さんの望みとは異なったリハビリをしてきたのかということです。
ただ、「本当」のリハビリは 不可能なものを可能にする という「魔法」のリハビリではありません。例えば、脊髄の完全に断裂している人がいくら本当のリハビリをしても自分の足だけで歩くのは現時点の医学では不可能なことは自明の理です(Rewalkというロボットを使用すれば脊髄の完全断裂でも胸椎下部以下の障害であれば、ロボットを装着し2本杖を使用すれば歩行自体は可能ですが)。繰り返しになりますが、本当のリハビリとは、本来回復するはずの能力をできる限り元の状態の能力になるように手助けすることです。利き手交換や車椅子での自立は患者さん本来の希望とは異なった方向のリハビリであり、動かない手が動き障害を受ける前と同じように使用でき、動かない足が動き自分の足で歩けるようになるように手助けするリハビリが患者さんに寄り添った「本当の」リハビリと考えています。その結果として、ADLは当然自立するようになるはずです。
最後に、患者さんと患者さんの家族の皆様にお願いしたいことは、本来回復するはずの能力を奪うような 従来のリハビリをしている施設ではなく、本当のリハビリを実践している施設でリハビリして頂くことであります。「真の」リハビリを受けることによって、不幸にも障害を受けた患者さんが本来あるべき姿まで回復すること 障害を受ける前の状態に出来るだけ近い姿に戻っていただくことを切に希望する次第です。
(最近、慢性期のリハビリをしているという医師の中で 回復期リハビリ期間が3ヶ月間ぐらいでよいという意見を言う人がいるということを知りました。恐らくその人は「偽の」リハビリにどっぷりつかって患者さんの本当の気持ちを知らないか、知ろうとしない人だと思います。利き手交換や車椅子生活をできるようにするだけなら確かに3ヶ月もあれば十分可能かもしれません。しかし、利き手交換や車椅子生活が患者さんの心から望むことではないのは自明のことであり、3ヶ月間リハビリすればよいという人は患者さんの気持ちを無視し リハビリの本質を知らない人だと思われます。患者さんが本来獲得できる能力を回復させてあげることこそが本当のリハビリであり、患者さんの希望を叶えるためには、現時点で利用できるあらゆる手段(時間を含め)を使用すべきと考えています。完全麻痺に一時的にもなった人には 今の回復期リハビリ期間として最長の半年では短すぎ 1年ぐらいじっくりリハビリする必要があるのではないかと考えているところです)
回復期リハビリテーション病棟
入院対象疾患 |
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疾 患
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発症から
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入院期間
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○
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脳血管疾患
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2ヶ月以内
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150日以内
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脊髄損傷 | |||
頭部外傷 | |||
クモ膜下出血シャント術後 | |||
脳腫瘍 | |||
脳炎 | |||
急性脳症 | |||
脊髄炎 | |||
多発性神経炎 | |||
多発性硬化症 | |||
腕神経叢損傷等 (いずれも発症 又は 手術後) | |||
義肢装着訓練を要する状態 | |||
高次脳機能障害を伴った重症脳血管障害 |
180日以内
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重度の頚髄損傷・頭部外傷を含む多部位外傷 | |||
○
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大腿骨・骨盤・脊椎・股関節、又は膝関節 |
2ヶ月以内
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90日以内
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○
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2肢以上の多発骨折 (発症 又は 手術後) | ||
○
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外科手術または肺炎等の治療時の 安静による廃用症候群 (手術後または発症後) |
||
○
|
大腿骨・骨盤・脊椎・股関節・膝関節の 神経、筋、靭帯損傷後 |
1ヶ月以内
|
60日以内
|
○
|
股関節又は膝関節の置換術後の状態 |
90日以内
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